秋の夜長

9月に入っても相変わらず昼間はセミの合唱が続くが、夜暗くなるとさすがにおとなしくなり、代わって鈴虫の声を聞くようになった。蝉同様、鈴虫以外にもいろいろな昆虫が張り合うように鳴き出すと耳をそばだててもなかなか聞き分けられない。
秋の夜長、奥泉 光「石の来歴」を読んだ。レイテ島からの帰還兵を主題としており、当初は大岡昇平のような経歴かと思ったが、全共闘世代よりももっとずっと若い世代の人であった。自らの経験していないテーマを主人公の深層に分け入って描写する表現力は、的確な漢字表現と相まって、印象深い作品であった。「読んだら古本屋」のルールに反して、暫く手元に置いておくことにする。